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執筆者の写真演奏藝術センター

第14回 坂田哲也「坂田哲也的シュルレアリスムで描いたベートーヴェン」

更新日:2021年1月6日



ベートーヴェンの肖像(坂田哲也・作)

*「藝大ベートーヴェン年」のシンボルマークとして制作され、いくつかのフライヤーなどにも登場している。





 



―まず先生と「シュルレアリスム」との出逢いについてお聞かせください。

憧れの藝大に入って最初の頃は、石膏室に入れられて割とアカデミックな授業をやっていましたが、1年生の終わりくらいにドイツの作家マックス・エルンストによる『フランスの庭』という、女性のヌードが地層の中に埋もれているような作品なんですけど、それを観て衝撃を受けたんです。「絵ってこんなに面白いんだ!眼の前にあるものをそっくり描かなくても、発想さえ豊かであれば、こんな超現実的な表現が出来るんだ。」とエルンストに自分の進むべき道を示されて、現在に至るというところです。

例えば日本画でも、徳岡神泉の作品などに感銘を受けました。洋画とか日本画とか、「シュルレアリスムだから」とかでなく、2つの視点、現実と非現実の境目のところに着眼してこれまで描いてきました。


 ―先生の作品は、ただ物体を描くだけでなく、そこに先生の「思想」が介在されているように感じます。しかも美しいですね。

 私のアトリエには、いろいろなモノが並んでいて、そこからインスピレーレーションを受けることがあります。ただ「人を描く」のではなく、植物や動物を人や物体のかたちに変容させていく。その変容と、さらに構図というものが、シュルレアリスムにおける「坂田哲也の持ち味」かな?とも思います。

 さらに「色彩の発色」「絵具の塗り重ねの透明感」が重要な要素です。油絵の魅力は「透明感」でもあるのです。厚く塗り重ねるのではなく、油絵具を塗って、広げて、重ねて行きながら生まれた「透層(とうそう)」による色彩の透明な美しさついて、これまで私はずっとこだわって来ました。むしろ油絵具の特性、色の美しさを最大限に追求する手段として、具象画であり、シュルレアリスムという作風を通しているのかもしれません。


 ―それでは「藝大ベートーヴェン年」のシンボルマークとしてご制作いただき、いくつかのフライヤーなどにも登場する、このベートーヴェンの肖像についてお聞かせください。

 私は“注文による肖像絵画”を描いたことがなかったので、依頼されたとき「出来るかな?」「今は忙しいので肖像画を描く時間はないな」と正直思いました。その一方で「これもひとつのチャンスかな」という気持ちと、何より音楽(学部)のほうからのプロポーズ、発注だったので、ちょっと「ベートーヴェンに挑んでみようかな」と思ったんです。

ただ時間がなかった(注:当初は夏の公演から作品を掲載するため、GW明けの締め切りでお願いしました)ので、下地に塗り重ねていく油絵ではなく、「紙にパステル」という手法を選びました。しかもパステルは色がきれいですし…。

製作の過程を説明しますと、まず使用した紙の全面には、ベートーヴェンの交響曲第5番《運命》の楽譜が印刷されています。ベートーヴェンの肖像としては、この髪の毛と赤いマフラーの絵が代表的だったので、その絵をそこに使うことにしました。そのままベートーヴェンの絵を模写しても私の意図に合わないので、その下地の楽譜や「巻き毛の中に音楽記号が隠れている」とか、外套の襟にイニシャルを入れたりして、いろいろと仕掛けを施しながら、私としては「オリジナルの肖像」を追求したのです。あと《運命》や《第九》を書いた人ですから、元の絵はもっとしかめっ面をしてますが、私としては「いいオトコ」に描いたつもりです。


 ―確かに先生の作品は「遠い昔の偉人」ではなく、「今ここに生きているベートーヴェン」という印象があります。

そう理解してもらえると光栄ですが、私の特徴である「描写と色彩」にはこだわったつもりです。マフラーの赤や襟の白など、色を際立たせるための細かい工夫をしていますので、そこも見てほしいです。中止になった演奏会(エグモント)が来年無事に開催されたら、この作品の原画をロビーに飾ってほしいと思っています。 絵の中に潜む仕掛けを、皆さんに楽しんでいただきたいのです。



『花宴の案内人』(坂田哲也・作) 

 *「コンサートスケジュール2020年前期版」小冊子の表紙を飾った。




坂田先生のアトリエ

*坂田先生のインスピレーションの秘密がこの部屋に…。






                                                    坂田哲也(さかた・てつや/洋画家、東京藝大美術学部名誉教授)


 

坂田哲也 Tetuya Sakata


1952年福岡県生まれ。東京藝術大学ならびに同大学院博士後期課程単位修得退学。同大学助教授を経て、2005年より20年春まで美術学部絵画科教授を務める。2020年春より名誉教授。1984年の個展の他、「巨匠展」・藝大美術館「異界の風景」など国内外の多くの企画展に招待出展。シュルレアリスムを通した具象絵画表現と、その可能性を追求しての創作研究・国内外での作品発表を続け、個性的で美しい色彩に溢れた独特の作品世界は、内外で高い評価を得ている。



 

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